Rezūmによる前立腺肥大症の水蒸気治療(WAVE治療)
当院では、米国のボストン・サイエンティフィック社が開発した、Rezūm治療(経尿道的水蒸気治療)を導入し体の侵襲の少ない日帰りの手術を提供しています。Rezūmは、103℃の高温の水蒸気を利用し肥大した前立腺組織を壊死させ前立腺を小さくする治療方法です。従来の手術と比べて手術時間が非常に短く5分程度の治療です。前立腺組織は70度以上の熱が加わると不可逆性に変性をしていきます。変性した組織は、術後1か月~3か月の期間をかけて体の血管やリンパ管からき吸収され、狭くなっていた尿道が広がっていきます。術後尿失禁はなく、また術後の性機能の維持も可能な治療方法です。通常の手術では起こる逆行性射精も2%程度と非常に少ない手術です。5年経過した後でも効果を保っているという報告もあります。
また、治療時間も5分程度と短いため、日帰り手術で対応可能な治療法です。
日本では2022年に厚生労働省の認可を受け、健康保険適用で治療を行うことができます。
治療の仕組み
デリバリーデバイスと呼ばれる、細い管状の装置を尿道から前立腺まで挿入し、エミッター針と呼ばれる特殊な針、その先端から103℃に加熱された水蒸気が9秒間前立腺内に放出されます。患部には103℃程度で加熱され肥大した組織が壊死します。壊死した細胞は自然に吸収されていき、前立腺が退縮し尿道への圧迫が改善します。
対流による熱伝導の効果
伝動型熱エネルギー
上記動画は、熱源が右から当たっている様子を示しています。
- 熱伝導は細胞から細胞へ熱を伝える
- 熱源に近い細胞が遠い細胞より多く加熱されるため、不均一な伝導加熱が起こる
- 前立腺被膜の伝導加熱が起こる場合がある
対流型水蒸気エネルギー
上記動画は、熱源が右から当たっている様子を示しています。
- 水蒸気が間質を介して対流的に供給される
- 熱エネルギーの迅速かつ均一な分散
- 水蒸気は領域の境界を通過しない
- 9秒間の治療で使用する水の量はわずか0.42ml
- 細胞膜を変性させ、即座に細胞死を引き起こす
治療の手順
(前立腺の大きさにより施行回数を調整します。)
治療の流れ
当院での手術前のご注意
- 手術前に抗生剤内服を忘れないで下さい。
- 抗血小板剤、抗凝固剤(血液サラサラ)のお薬を飲んでいる方は申し出てください。
- 遠方からの患者様は、近隣のホテルへの1泊宿泊をお願いする場合があります。
- 手術当日は、付き添いの方と受診してください。
※諸注意をお守り頂けない場合は、患者様の安全を考慮して手術中止となる場合があります。
前立腺肥大症低侵襲手術(ウロリフト・レジウム)
- 問診、各症状スコアアンケート等
- 排尿力ドック(今後の排尿障害治療のための体の状態を調べます)
・尿流量測定+残尿測定
・ホルモン採血
・超音波検査等 - 感染症検査(手術に向けて感染症の有無を調べ抗生剤の投与種類などを把握します。)
・感染症採血
・尿培養検査 - 排尿機能検査(手術に必要な前立腺内部の形態や麻酔方法などを選択します。)
・内視鏡
・膀胱内圧測定
手術当日の流れ
受診
体温測定・血圧測定などのバイタル測定検査をします。
※血圧の異常高値や37度以上の発熱がある方は中止になる場合があります。
術前処置
- 尿道の局所麻酔
- 前立腺ブロック等の局所麻酔
- 20分前後の安静
手術
- 内視鏡による手術開始
- 所要時間5分から10分
術後
- カテーテル留置の場合:術後10分程度お休み頂き帰宅
- カテーテル留置の無い場合:術後10分程度お休み頂き、排尿後の残尿測定を行い帰宅
※術後のカテーテル留置の有無は、術式・術中所見により変わります。
レジウムの流れ
Step1
まずは外来で診療し、前立腺の肥大状態を国際前立腺スコア、超音波検査、尿流量測定、膀胱鏡検査などによって病状を評価確認します。その他現在治療中の全身疾患や既往症などについても確認し、この治療に適しているかどうかを確認します。術前評価として採血や筋肉量測定等排尿に関連する検査を含む排尿力ドックを行います。治療適応の場合は手術日程を決定します。術前に抗生剤の内服処方を致します。
Step2
手術は局所麻酔をしてから行います。麻酔は患者様の状態によって静脈麻酔、局所麻酔、ガス麻酔などを選択します。また尿道に麻酔を追加することもあります。患者様の状態で全身麻酔などを必要とする場合は、7日程度の入院手術となりますが、順天堂大学での手術を計画もしくは紹介を行います。
手術そのものは3~10分程度で終わります。手術時間は前立腺の肥大度合い、出血の状態などによって変わってきます。
Step3
手術終了後は、前立腺に一時的に浮腫が生じます。そのため3日~1週間程度尿道カテーテルを留置することになります。術後、抗生剤内服と鎮痛剤の処方を行います。状態を確認しながら術後の外来診療の際に抜去します。
排尿状態については、個人差はありますが、多くの場合1か月程度で改善効果があらわれます。
治療の適応
高齢者であり、全身麻酔を行うのに困難な場合に行います。前立腺の肥大によって排尿障害があらわれていて、薬物による治療を行っても十分に効果が得られない場合や、尿閉などが合併しているケースでは手術治療を検討することになります。
手術の方法としては、従来からの経尿道的前立腺切除(TUR-P)、ホルニウムレーザー前立腺核出術(HoLEP)、前立腺レーザー蒸散術(PVP)といった術式がありますが、全身状態によってこれらの手術を選択することが難しい患者様に対して、低侵襲なRezūmによる手術が適用できます。
Rezūmによる治療に適応する前立腺の大きさは30~80mL程度とされていますが、場合によっては大きさの大きな場合でも治療の提供を検討致します。通常、抗血栓薬や抗血小板薬など血液をさらさらにする系統の薬の休薬(抗血栓症薬)は一時中止をして手術を行いますが、病状により低侵襲治療のため抗血栓薬や抗血小板薬などを休薬が出来ない場合でも治療が行えるかを検討致します。(ただし慎重に治療を行う必要はあります)。
当院では、順天堂大学での前立腺根治術(経尿道的レーザー核出術:HoLEP)も提供しているため、術前に前立腺の重量、形態を慎重に判断し、低侵襲手術、根治手術のどちらがご本人に最適な治療化を判断し治療を提供致します。
治療による有害事象(合併症)
Rezūm治療による主な合併症には、まずは治療部分の痛み、血尿や尿閉などの他、尿路感染のおそれもあります。さらに、尿道のカテーテルも取り外すまでの間痛みを生じることがあります。ただし、これらの症状は時間が経てば解消していきます。目安は治療効果があらわれるまでの間、一般的に1か月程度です。
また、Rezūm治療は他の前立腺手術と比べると性機能への影響が少ないことが特長の一つですが、術前の性機能がどの程度維持されるかには個人差があります。
現在までの治療成績
本治療は日本で認可されてからまだ1年程度ですので、海外での5年間の臨床試験のデータになりますが、国際前立腺スコアで45%、QOLスコアでも45%という高いスコアの排尿の改善が見られます。さらに尿勢においても最大尿流量率が44%改善したというデータがあります。
また、術後の再発や経年による再進行も少なく、再手術率は4.4%と低い数値になっています。
当院の治療実績でも術後1か月での国際前立腺スコアやQOLスコア、最大尿流量率、残尿量などの点において大きく改善がみられています。
Rezūmは低侵襲で短時間のうちに完了する手術でありながら、効果の高い術式ですが、本治療が適応するかどうかの判定もありますので、ご希望の方は、まずはご相談ください。
水蒸気療法のメリット
Rezūmによる治療は、尿道からデリバリーデバイスとよばれるカテーテルのような装置を挿入し、ニードル(針)によって前立腺に水蒸気を放出します。そのためメスを使わない低侵襲の治療です。麻酔についても一般的には静脈内麻酔や鎮痛剤に局所麻酔を追加する程度で済みます。また手術自体3分から10分と短時間で済みますので、ほとんどの場合で、日帰り手術が可能になります。
また、多くの前立腺手術では術後勃起不全や逆行性射精のリスクがありますが、Rezūmではそのリスクが非常に少ないことが分かっています。
こうした身体への影響が少ない術式ですので、他の術式のリスクが高い患者様にも適した方法と言えます。
なぜ前立腺肥大症の日帰り手術?
前立腺肥大症では、尿の勢いが悪くなった・尿が漏れる・何度もトイレに行く(頻尿)・残尿感といった排尿症状を生じることがあります。
当院では、排尿(おしっこ)のトラブルでお悩みの方々・生活に不安や支障をもたらしている方々に尿トラブルを改善することでより快適な生活を送ってほしいと考えています。
尿トラブルのひとつの原因が前立腺肥大症です。
前立腺肥大症による上記のような尿トラブル(排尿障害)を改善する方法として、手術という選択肢があります。
当院では、国内外で経験と技術を積んだ医師が日帰り手術を行っています。
左動画は、HoLEPという前立腺手術後の排尿を示したものですが、このように手術を行うことでスムーズな排尿が可能になります。
また、右動画はRezumといった前立腺肥大症の日帰り手術を行っている状態で、前立腺の中に均一にまんべんなく水蒸気が広がっていく様子を示しています。
前立腺肥大症の日帰り手術と言っても様々なものがあります。まずはお気軽にご相談ください。
前立腺肥大症の3つの手術
前立腺肥大症の日帰り手術には、UroLift(ウロリフト)・Rezum(レジウム)・HoLEPと呼ばれる3種類があります。
従来からHoLEPの有効性が示されてきましたが、近年RezumやUroLiftにおいてもその有効性(成績)が示されるようになってきました。
ここでは、下記3つの観点から治療成績(短期的・長期的)を説明していきます。
排尿スコアで比較する
UroLift | Rezum | HoLEP | |
---|---|---|---|
ベースライン | 22 | 22 | 28 |
3か月後 | -11 | -11 | ‐21 |
12か月後(1年後) | -10 | -12 | ‐21 |
5年後 | -8 | -11 | ‐18 |
排尿スコアで見ると、短期的にはHoLEPとUroLift、Rezumに差があります。しかし、長期的(5年)で見ると、その差は小さくなり、UroLiftやRezumでも一定して良好な成績(排尿スコア)があることがわかります。
QOLから見る満足度で比較する
UroLift | Rezum | HoLEP | |
---|---|---|---|
ベースライン | 4-5 | 4.4 | 4.8 |
3か月後 | -2.5 | -2.1 | -3.0 |
12か月後(1年後) | -2.5 | -2.1 | -3.3 |
5年後 | -2.1 | -2.2 | -3.3 |
QOL(満足度)で見ても、短期的にはHoLEPとUroLift、Rezumに差があります。しかし、長期的(5年)で見ると、その差は小さくなり、UroLiftやRezumでも一定して良好な成績(QOL)があることがわかります。
※0~6で評価しており、0に近いほど満足度が高いことを示しています。
合併症から見る満足度で比較する
UroLift | Rezum | HoLEP | |
---|---|---|---|
腹圧性尿失禁 | - | - | 1.3~44%(3か月後) 1%(1年以上経った場合) |
切迫性尿失禁 | 3% | 5.9% | 44% |
排尿障害 | 9% | 16.9% | 59% |
尿閉(尿が出ない) | <0.01% | - | 0.5~8.1% |
輸血 | - | - | 1.6% |
合併症から見ると、HoLEPでは一定数尿失禁や排尿障害といった尿トラブルが生じるのに対して、UroLiftやRezumは合併症が低い(起こりにくい)といった特徴があります。