排尿(困難)症状
排尿に関わる症状は、尿を出す時に何らかの問題が起こる排尿症状、尿を溜めることに障害がある蓄尿症状、尿を出した後に何らかの問題がある排尿後症状に分けられます。
排尿症状の代表的なものは、「おしっこの勢いが弱くなった」「おしっこをする時お腹に力をいれないと出にくくなった」「おしっこが出にくくなった」といったものです。また蓄尿症状では「トイレが近くなった」「就寝時もトイレで何度か目が覚めてしまう」「トイレに間に合わず、少し漏れてしまう」など、排尿後症状では「おしっこが終わってもまだ残っている感じがする」「終わって下着を着けた後、尿が出てしまう」といったものが代表的です。
排尿症状の原因は、その身体の構造の違いから、男女で少し異なっています。
前立腺肥大症
男性の感染症以外での排尿症状の原因として一番多いのは前立腺に関する障害です。前立腺は膀胱のすぐ下に尿道を取り囲むように存在する男性特有の臓器で、前立腺液を分泌し精子に栄養を与え精液を作る働きをしています。この前立腺は個人差こそあれ加齢や食生活の欧米化によって肥大してくる傾向があります。多少肥大しただけで、特に排尿に関する障害が起こっていなければ、病気とも言えない状態なのですが、肥大してくることで、尿道が圧迫されるなどするために排尿障害が起こります。
前立腺の肥大は40歳ごろから始まることが多く、年齢が上がるに従ってその比率は高くなっていきます。中高年の男性で尿を出しにくくなってきたなどの排尿障害があらわれた場合、まずは前立腺肥大を疑うことになります。
前立腺の加齢に伴う成長は、歴史的に言われる血清アンドロゲンの単なる増加または減少だけでは説明できなくなってきています。下部尿路(前立腺肥大症)と男性ホルモンの関連もしてきされており、
- ホルモン比(アンドロゲン対エストロゲン比)
- 前立腺内ホルモンレベルの変化
- ホルモンおよび各受容体の改変作用
- 前立腺内酵素(例えば5AR)のシフト
アンドロゲン依存性の
- α1-アドレナリン作動性受容体活性
- ホスホジエステラーゼ5型活性
- Rho-キナーゼ活性化/エンドセリン活性
に対するテストステロンの効果などが指摘されています。
参考文献:Relationship of sex hormones and nocturia in lower urinary tract symptoms induced by benign prostatic hyperplasia
Myung Ki Kim,Chen Zhao,Sang Deuk Kim,Dong Gon Kim &Jong Kwan Park Pages 90-95 | Received 13 Oct 2011, Accepted 18 Jan 2012
また、アンドロゲンは海綿組織におけるPDE5遺伝子およびタンパク質発現を増加させ、一酸化窒素合成酵素(NOS)を正に調節することも分かっています。これらの酵素は膀胱内でも発現しており、排尿筋に弛緩作用を有します。
参考文献:Neuronal nitric oxide synthase in the neural pathways of the urinary bladder YUAN ZHOU1 AND ENG-ANG L ING2
" Department of Experimental Surgery,Singapore General Hospital, and # Department of Anatomy,National University of Singapore, Singapor
治療としては、内服治療や手術が主流となっていますが、手術は入院や全身麻酔、腰椎麻酔などの侵襲治療が主流であり、積極的加療を望まれる患者様のハードルが高いのも現状です。欧米ではすでに5年以上前から、前立腺肥大症手術の低侵襲化が進んでおり、日帰りでの手術療法が確立しています。前立腺肥大症の治療選択としての内服治療と入院での手術療法以外に、クリニックでの日帰り低侵襲治療が良好な成績が報告されており、小~中程度の前立腺肥大症に対する第一選択の手術療法となりつつあります。現在、欧米をはじめ全世界でこうした前立腺肥大症のパラダイムシフトがおこっており、前立腺の大きさにより低侵襲化した治療を日帰りで受けれる時代となっています。
当院では、大学病院での手術研鑚、全米5か所の日帰り手術クリニックへの研修とディスカッション等も行っており、前立腺低侵襲手術療法として、日本でも2022年に保険収載された、テレフレックス社の医療デバイスであるUroLift®とボストン社の医療用デバイスであるRezūm®の両方を導入しております。
これからの前立腺肥大症手術は、前立腺の大きさのみではなく、前立腺の内服の形態(中葉肥大型・側葉肥大型)などや膀胱機能の周辺は血管や神経などが複雑に入り組んでおり、手術の難しい部位とされていましたが、当院では、近年開発された経尿道的に前立腺の処置を行うことができる医療用デバイスRezūmを導入し、安全かつ効果の高い治療を行うことを可能にしていますので、前立腺の症状にお悩みの方は、いつでもご相談ください。
前立腺肥大症の形態変化
(症状の変化)
前立腺肥大によって症状があらわれてくると、前立腺肥大症となります。前立腺肥大症の症状は初期の軽い症状からだんだんと進行し、それを第1期(膀胱刺激期)、第2期(残尿発生期)、第3期(慢性尿閉塞期)の3期に分けて考えられています。
第1期(膀胱刺激期)
第1期はまだ初期の軽い症状の時期です。肥大してきた前立腺によって膀胱が刺激され、下記のような症状があらわれます。
- 尿回数の増加(頻尿、夜間頻尿)特に夜間頻尿
- 急に激しい尿意を覚えトイレに間に合わない感覚(尿意切迫感)
- 激しい尿意を覚えトイレまで持たず漏れてしまう(切迫性頻尿)
- 尿を出しにくい感覚(軽度)
- 尿を出そうとしてもすぐに出てこない(遅延性排尿)
- 排尿し終わるまでの時間が極端に長くなる(苒延性排尿=ぜんえんせいはいにょう)
第2期(残尿発生期)
肥大がやや進行して、尿道が圧迫されてくる時期です。それによって下記のような症状があらわれます。
- 尿を出すときに、腹圧をかけないと出ない
- 尿道が圧迫されて尿を出し切れず残尿が発生する(50※~100mL程度)
- 昼間に頻尿症状があらわれる
- 突発的に尿を出せないことがある※※(尿閉)
※残尿は50mL以上を認めると治療が必要な状態とされています。
※※尿閉とは膀胱に尿が溜まっているのに排尿できない状態です。第2期ではアルコールを飲んだ時、ずっと座っていた時、風邪薬などを飲んだ時などに突然尿閉が起こることがあります。
第3期(慢性尿閉塞期)
この時期は前立腺肥大が進み、常に尿道を塞いでしまっているような状態になっています。そのため下記のような症状があらわれます。緊急に治療が必要な状態です。
- 膀胱の収縮力が低下してしまい、排尿が困難になることや、尿意そのものを覚えにくくなる
- 尿が膀胱に溜まっているのに出すことができない状態で、勝手にだらだらと尿が漏れてくる(溢流性尿失禁=いつりゅうせいにょうしっきん)
前立腺炎
前立腺が細菌などに感染して炎症を起こした状態です。前立腺は尿の通り道にあり、また精液なども通りますので、外尿道口から侵入した細菌に感染してしまうことがあります。それによって、頻尿、排尿時痛などの症状が起こります。抗菌薬や植物の花粉由来のセルニルトンという薬などによって治療します。治しておかないと慢性化することがありますので注意が必要です。
前立腺がん
前立腺にできるがんです。通常、進行は比較的ゆっくりしており、特に高齢者に発症しやすいがんですが、進行させてしまうと骨やリンパ節などに転移しやすくなります。何らかの排尿症状が起こったら前立腺がんも疑い血液検査で前立腺がんのマーカーであるPSAを定期的に行うようにしましょう。
夜間頻尿
就寝中に尿意を覚えて1回以上目が覚めてしまうのが夜間頻尿です。通常寝ている時は副交感神経の働きで緊張が緩み膀胱は尿を溜めやすくなります。また尿をあまり作らないように抗利尿ホルモンも働きます。サーカディアンリズムの変調によりでこういった仕組みが乱れることなどで夜間頻尿が起こります。夜間2度以上尿意で目が覚める状態になると治療が必要とされています。また、夜間頻尿は睡眠障害と大きく関わりがあり、なかなか寝付けずその間に尿量が増えてしまったり、トイレに目が覚めて眠れなくなったりと悪循環に陥ることもあります。こうした原因にあわせて治療を行っていきます。
過活動膀胱
膀胱の神経や排尿のための筋肉などが働き過ぎることによって、膀胱に尿があまり溜まっていないのに、急に激しい尿意を感じ(尿意切迫感)、時に間に合わず漏れてしまう(切迫性尿失禁)症状を起こすのが過活動膀胱です。女性の頻尿に多い症状ですが、男性にも起こります。
加齢、ストレスによる自律神経の乱れなどの他、膀胱の知覚神経が過敏になるような状態が原因となり、トイレの水音を聞くと強い尿意を催す、洗い物などで水に触れると尿意を催すなどのきっかけで症状が起こることもあります。
多くの場合、日常生活に支障をきたすようになりますが、治療することで改善していきます。根気よく治療を続けていきましょう。
当院では、薬物療法の他、骨盤底筋体操、磁気治療による膀胱訓練、適量飲水指導など、患者様の状態にあわせて様々な治療・アドバイスを行っています。