排尿(困難)症状
人は身体に溜まった不要物などを水分とともにおしっこ(尿)として排泄しています。腎臓で作られた尿が尿管を通って膀胱まで来ると、しばらく溜められて(蓄尿機能)一定量を超えると尿意を感じ、尿道を締めつけている筋肉が緩んで排泄します(排尿機能)。この機能は脳によってコントロールされ、神経を通じて伝達されています。この仕組みのどこかに不調や疾患があって尿に関する不具合があらわれるのが排尿障害です。
排尿障害は「尿が近い」、「睡眠中に尿意で起きてしまう」、「我慢できずに漏れてしまう」といった蓄尿機能に関わる蓄尿症状、「力を入れないと排尿できない」、「尿の勢いが弱い」といった排尿に関わる排尿症状、「出し終わったはずなのに少し残っていて下着を着けた後少し漏れてしまう」、「排尿後もまだ尿が残っている感じがする残尿感」といった排尿した後の排尿後症状という3つの症状に大きく分けることができます。これらは単独であらわれることも、複数が同時にあらわれることもあります。
また、女性と男性では膀胱から外尿道口まで長さや形が異なりますので、あらわれやすい排尿症状も異なっています。
女性の排尿障害の種類
尿失禁
自分の意思に反して尿が出てしまう状態が尿失禁です。尿失禁には水に触った時やトイレの音を聴いた時などに突然強い尿意を感じて、トイレに間に合わず漏れてしまう「切迫性尿失禁」、くしゃみをしたり思い物をもったりなど腹圧がかかる状態で漏れてしまう「腹圧性尿失禁」、膀胱に尿が溜まっているのに尿道の疾患などの関係で排尿できず、勝手に少しずつ膀胱から漏れ出てしまう「溢流性尿失禁」、尿路の機能には問題がないのに身体が動かせず漏らしてしまう「機能性尿失禁」に分けられますが、このうち女性に多いのは切迫性尿失禁と腹圧性尿失禁です。この2つは合併してあらわれることもあります。
尿失禁の診断
尿失禁はその裏にある原因をきちんと洗い出して的確に治療することが大切です。そのために、まずは問診でどんな時にどのような形で漏れるのか、などの排尿状態についての様々な質問の他、生活習慣や既往症、服薬歴などについて詳しくお訊ねします。その後、尿検査、超音波検査、残尿検査などを行い、必要に応じて腹部の触診、尿流量検査などを行うこともあります。また腹圧性尿失禁が疑われる際には、1時間パッドを着けて開始前と開始後のパッドの重さを測定するパッドテストや膀胱内圧検査などを行うこともあります。
尿失禁の治療
原因と、症状の重さや日常生活への影響などによって治療法は異なります。
腹圧性尿失禁が原因の場合は骨盤底筋体操、行動療法、薬物治療などを主に行い、重症の場合は、膀胱の頸部を挙上する手術を検討します。一方、切迫性尿失禁の場合は骨盤底筋体操、膀胱訓練、薬物療法などを中心に治療していきます。どちらの場合も排尿日誌を付けることも大切です。
原因が混合的な場合は、状態に応じてそれぞれの治療法を組み合わせていきます。
頻尿
何度も尿意を催して、排尿の回数が多くなるのが頻尿です。起きている間に尿の回数が多い頻尿と、就寝時にも尿意で何度か目が覚めてしまう夜間頻尿があり発症のメカニズムは少し異なります。夜間頻尿の定義は就寝中に1度でも排尿のために目が覚めてしまうことですが、通常2回以上排尿が必要な場合治療が必要です。また起床している際の頻尿の場合、突然我慢できないほどの尿意が起こる「尿意切迫感」がある場合や「尿失禁」があるなど日常生活に差し障りがある場合には治療を行うことになります。
頻尿の診断
まずは問診にて排尿の状態、既往症、服薬歴、生活習慣などについて詳しくお訊きします。その上で、尿検査を行い、必要に応じて超音波検査で膀胱の状態、残尿量などについて調べます。なお初診前に、1日の排尿の状態を記録していただく排尿日誌をつけてお持ちいただくと診断のための大きな手がかりになります。排尿した時刻、量の他、水分摂取をした時刻や量、尿失禁などの症状があればその時刻なども記録してください。
頻尿の治療
骨盤底筋体操、膀胱訓練、適量飲水指導などの他、必要に応じて薬物療法を行います。
過活動膀胱
突然我慢できないほどの強い尿意を催す尿意切迫感があり、頻尿状態であること、または切迫性尿失禁の症状がある場合、膀胱をコントロールしている神経に異常があるケースや、骨盤底筋群の筋力が低下して弱まってしまっているケース、その他何らかの疾患によって生じていることがあります。女性に多い疾患で、罹患者数も多いとされています。
過活動膀胱の診断
尿意切迫感や切迫性尿失禁などの症状があることから、これらの疾患と同様、まずは問診によって排尿の状態、既往症、服薬歴、生活習慣などについて詳しくお訊きし、尿検査、必要に応じて内診や超音波検査で膀胱の状態や残尿の状態などを調べます。1日の排尿の時刻、それぞれの排尿量、水分摂取の時刻と量、尿漏れのあった場合はその記録などを数日にわっって記録した排尿日誌を受診前に作成してお持ちいただくと、診断のための有用な情報となります。書式はインターネットで排尿日誌と検索することでテンプレートをダウンロードすることもできます。
過活動膀胱の治療
骨盤底筋体操、膀胱訓練などの行動療法の他、状態に応じて内服薬の処方を行います。
骨盤臓器脱
出産や加齢などが原因で、骨盤底筋群が傷ついたり緩んだりして、子宮、膀胱、直腸といった骨盤臓器が膣内へ飛び出し、ついには膣外まで出てしまうことのある疾患です。肥満や便秘なども悪化要因と考えられています。
長い時間立ったままの生活や、重い物を持ったときなどに飛び出すこともあり、入浴中やトイレで飛び出しているのに触れて気づくケースが多くなっています。
骨盤臓器脱の診断
症状や排尿や排便への影響、既往症、服薬歴、生活習慣などについて詳しくお聞きします。その後、内診を行います。また必要に応じて経膣超音波検査を行い、脱の状態を確認します。骨盤臓器の脱出の程度によってステージ1~4に分類しています。
骨盤臓器脱の治療
治療はステージによって異なりますが、基本的に脱出の程度が軽い場合(ステージ1)は経過観察のみに留めることもあります。この疾患では服薬療法はありませんので、骨盤底筋体操などの療法や、やや進行していて手術を望まない方にはペッサリーリングなどの留置を行うこともあります。重症の場合は手術治療になり、骨盤底部をメッシュで補強する手術を行います。この場合連携している高度医療施設をご紹介してスムーズに治療を受けられるようにします。
間質性膀胱炎
トイレに行ってもすぐに尿意を催す、尿が溜まると膀胱が痛むなどの症状があって、受診しても尿に細菌感染などの異常が見られないような場合、間質性膀胱炎が疑われます。膀胱の粘膜に細菌感染以外の何らかの理由で常に炎症が起こっている状態で、重症の場合は膀胱の潰瘍が見られることもあります。特有の炎症症状が見られるハンナ型間質性膀胱炎は難治性のため難病指定されており、医療費の補助を受けることができます。
間質性膀胱炎の診断
基本的には、排尿状態、既往症、服薬歴などの他、生活習慣などの詳しい問診を行います。この疾患の場合、細菌感染や器質的な異常などが無いことを確認していくことが大切なため、尿検査、血液検査、超音波検査などで除外診断を行った後、膀胱の内視鏡検査で膀胱内の炎症状態を確認します。
間質性膀胱炎の治療
適量飲水指導、膀胱訓練などの他、香辛料など刺激物を減らしていく食事指導といった生活指導を行います。薬物療法としては、鎮痛薬、抗アレルギー薬、抗うつ薬などを処方しますが、効果は限定的です。その他の治療法としては、検査時に同時に加療が可能な膀胱水圧拡張術によって数か月間症状の軽減を得ることが可能です。また膀胱内視鏡で潰瘍などの症状がある場合はレーザーや電気メスで膀胱粘膜の焼灼を行います。
尿勢低下
女性は尿道が短いことから尿漏れや頻尿などの症状が多いのですが、尿道狭窄、骨盤臓器脱、膀胱の筋力が弱まっている、排尿に関する神経伝達に異常があるなど、様々なケースで尿の勢いが弱い、尿を出しにくい、残尿感を覚えるなど尿勢低下の症状が起こることもあります。
尿勢低下の診断
詳しい問診を行った後、尿検査や内診、超音波検査などで原因を特定します。脊柱管狭窄症などによって神経伝達に異常が起こっていることが原因となることもありますので、尿路以外の全身的な検査をお勧めすることもあります。
尿勢低下の治療
様々な原因がありますので、原因疾患の治療を基本的に行います。
尿道ポリープ
尿道カルンクルとよばれるポリープが、外尿道口の膣側にできる疾患です。良性のポリープで大きさは数mmから大きくなると2cmほどになることもあります。閉経後の女性に多くみられる疾患です。
尿道ポリープの診断
症状をお聞きして、カルンクルが疑われる場合は内診によって診断できます。
尿道ポリープの治療
ポリープが小さく特に生活上に支障がないようなら、治療の必要はありません。トイレなどでペーパーを使う際に痛みや出血が見られるような場合は、まずは内服治療やいきむような動作を控えるようにするといった生活指導で経過観察をすることがあります。大きくなって症状が重い場合は手術で切除します。
尿道憩室
憩室とは、粘膜の内側に袋状の穴ができた状態のことです。多くの場合炎症によって痛みや腫れなどを伴います。男性の場合先天性が多いのですが、後天性の尿道憩室はほとんどが女性に起こる疾患です。
尿道憩室の診断
MRIなどの画像検査で診断を行います。
尿道憩室の治療
抗菌薬、抗炎症薬などで内服治療を行い、経過観察をするケースもありますが、抗生物質の患部注入や手術などを検討する場合もあります。
神経因性膀胱
膀胱や尿道などの器質的な疾患が無く、脳や脊髄などの中枢神経や、排尿に関連する末梢神経などに障害が起こり、尿意を感じにくくなる、膀胱が収縮しにくくなって排尿しづらい、尿失禁が起こるなどの症状があらわれるのが神経因性膀胱です。原因は脳梗塞や脳出血、脊髄の外傷、子宮や直腸の手術の後遺症、脊柱管狭窄症など様々で、先天性の疾患による可能性もあります。治療しないと排尿が困難となり腎機能に障害が起こることもあります。
神経因性膀胱の診断
問診で排尿状態について、既往症、服薬歴、生活習慣などについて詳しくお訊きします。特に神経の障害が起こるような事象があるかどうかを特定することが大切です。その後尿検査で感染性の疾患がないかなどを調べ、超音波検査で膀胱の状態、残尿の状態などを調べます。また物理的な排尿状態を調べるために尿流量検査を行うこともあります。腎臓への影響が疑われる場合、血液検査やシンチグラフィー(放射線が含まれる薬剤を投与して行う画像検査)などを行うこともあります。
神経因性膀胱の治療
基本的に薬物治療が中心となります。排尿障害がある場合はα1ブロッカーを処方し、定期的に自己導尿や留置カテーテルなどの処置を行います。蓄尿症状がある場合は、抗コリン薬やβ3受容体作動薬などを処方します。
腹圧性尿失禁
咳やくしゃみをした時やジャンプした時、思い物を持ったときなど、お腹に力がかかり腹圧が上がった時に思わず少量の尿が漏れてしまうような症状がある場合、腹圧性尿失禁が疑われます。骨盤底筋群が傷ついたり緩んだりすることが原因で、尿道を締め付けることができなくなり尿失禁が起こります。
腹圧性尿失禁の診断
内診で、咳をしていただき、お腹に力が入ったときの膀胱周辺や尿道の力の入り具合などを確認します。また必要に応じて1時間パッドを当てていただき、開始前と終了後のパッドの重さを量るパッドテスト、チェーンつきのカテーテルを膀胱に挿入して造影検査などを行います。
腹圧性尿失禁の治療
軽症の場合は、骨盤底筋体操を行うことで症状が改善することがあります。症状が強い場合はそれに加えて、薬物療法として気管支喘息の治療薬であるβ2刺激薬などを処方し膀胱の緊張を緩める治療を行います。さらに重症の場合、尿道上部にメッシュテープを埋め込んで膀胱の下がりを防ぐ手術を行うこともあります。
溢流性(いつりゅうせい)尿失禁
尿が膀胱内に溜まっているにも関わらず、膀尿を出すことができない状態で、溜まった尿が膀胱から溢れて少しずつ漏れていってしまう状態が溢流性尿失禁です。膀胱の収縮が弱まっている、尿道に狭窄がある、膀胱周辺の神経の機能が低下しているといったことや、子宮がんや直腸がん、骨盤臓器脱などが原因となることもあります。溜まった尿で細菌感染が起こりやすくなることや、尿の腎臓への逆流による腎機能の障害などの可能性もありますので、早めに当院までご相談ください。
溢流性尿失禁の診断
問診で溢流性尿失禁が疑われる場合は、尿検査で尿路感染症などがないか調べ、膀胱周辺の超音波検査やMRI検査、CT検査などの画像検査、尿流動態検査、残尿検査などを行って尿の流れや原因となっている疾患などを調べます。
溢流性尿失禁の治療
尿が出にくくなっている原因の治療を行う必要がありますが、女性の場合骨盤臓器脱によって膣内に出た臓器が尿道を圧迫している可能性などがあり、薬物療法の効果はあまり気体できません。自己導尿(自分で尿道にカテーテルを入れて尿を出す)や手術などが必要になります。
機能性尿失禁
排尿機能そのものには問題がないのに、身体的な障害によってトイレに行くことが間に合わなくなって尿失禁してしまうか、または認知症などによってトイレに行くという概念が無くなってしまったような状態で尿失禁してしまうのが機能性尿失禁です。
ケガや筋力が衰えてしまった場合や、トイレまでの距離が遠い、動線が確保できていないなどの問題もあります。
機能性尿失禁の診断
原因となっている疾患をつきとめることが大切です。泌尿器科だけではなく総合的な診察や検査が必要です。
機能性尿失禁の治療
原因疾患によって異なりますが、身体機能の低下による場合は、リハビリテーションやトレーニングなどで症状が軽減することがあります。また生活環境を見直し、トイレまでの動線を確保する、手すりをつけるなどの生活上の工夫も整える必要があります。